みずたま色の空

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本当の比率で作る塩麹

数年前に大きくブームになって以降、スーパーのお味噌コーナーの片隅に今もなお置かれている塩麹。お料理に使ったことのある人も、お店で「塩麹漬け」とか「塩麹焼き」とかを食べたことがある人も結構多いのではないかと思う。

この塩麹の火付け役になったのが、私が敬愛してやまない漫画「おせん」なのだそうだ。おせんにそう書いてあって、ネット検索したら確かにそんな話がたくさんあった。

塩麹、私はブーム以降毎年作っている。

麹の香りが強くて塩味がキーーーンとくる作り始めから、毎日混ぜてはひと舐めし、徐々に甘く角の取れた味に変化していく様が好きだから。

季節によるが大体1週間から2週間で使えるようになる。麹がお粥のようになり、キツかった香りが柔らかくなって、塩味がキーーーンと尖ったものから旨味になってきたら頃合だ。


今年も塩麹を作った。今回はおせんの比率で。

というのも、漫画「おせん」の中で、

「世の中に広がっている塩麹の比率が間違っている!」

と書かれていたのだ。


そもそも塩麹は東北のごく一部の地域で使われており、おせんで取り上げられたことで世の中に出てきたらしい。その流れを当時見ていたわけではないから「らしい」なのだけれど、とにかく「日本全国に昔からあった」というよりは、「日本の一部で使われていてあまり知られていなかったから劇的にブームになった」というのが塩麹ブームだったのだと思う。


今一般的に伝わっている塩麹の比率はこれだ。

麹:塩 10:3
麹1kgに塩300g

少なめに作るレシピでは、麹200gに塩60〜70gが多い。


一方、おせんに言わせるとそれは塩麹さんとはいえないそうで、本来の比率はこう。

麹:塩 10:3

……同じじゃないかとお思いの方。確かに、比率は同じ。

ただ違うのは、この比率は重さではなく重(かさ)だということ。

よく考えてみれば、昔から作られていたのに、昔の人が塩麹を作るために重さ計っていたとは思えない。お米を計量するのと同じ、升で計量していたのだろう。

というわけで、おせんの言う「本当の比率」はこちら。

麹:塩 10:3
乾燥麹1升に対して塩が3合
これを重さに換算すると、おおよそ麹1kgに塩600g。

つまり、世の中に広がった塩麹は塩の量が約半分しか入っていないのだった。

おせんが塩麹について話しているセリフに、

「保存がしっかりきいて塩っ辛さのあとにじわあっと甘みが来るのが本来の塩麹さん」

というものがある。これの前後で、世の中に広がってる間違った比率の塩麹について、保存がきかず塩っ辛さの前に甘みが来る塩麹なんて本場の人間からいうと塩麹とは言わないと言い切っている。

なぜここまで言い切れるかというと、作者のお母さんが塩麹を作っていて、作者自身が塩麹を食べて育った人だからだった。この辺りも漫画に出てるので気になる方は是非読んでみてほしい。


これまで私が作ってきた塩麹は、麹の香りがぷんとして、甘みがあって、その奥に塩があるという味だった。毎年作るのだけれど、何に使っても若干麹の風味が立ちすぎていることが気になっていた。粒のままだからいけないのか?と思って、ミキサーでトロトロにして使ったりもした。それでも麹の風味は強いまま。
毎年作るけれど、毎年納得のいかない出来だった。


かくして、おせんの塩麹回を読んでいてもたってもいられない私は乾燥麹を買いに行き、家にあった真塩(生活クラブの塩)を使って塩麹を仕込んだのだった。
麹1kgに塩600gで。

仕込んでもう3週間くらい経つ。
強いけどキツくない塩味がカーッときて、その後に甘い旨味がやってくる。麹の風味が主張しすぎない。

おせんの中で、塩麹を肉や魚や野菜にまぶしつけたまま提供される料理は間違っているという下りがあって、それにも大層驚いた。だって世の中多いんだもの、そういうお料理。
だけど考えてみたら、粕漬けの粕を落としもせずにベタベタにつけたまま食べるかと言ったら違うし、西京漬が味噌べったりのまま焼かれることもなく、下味に使った麹をそのまま食べるなんてことは日本料理では基本的にはしていないのだった。

もちろん、例外もあるけれど。かぶらずしとか(大好物)。
麹が下味ではなくて素材になるものなら、そのまま出されるというものだろう。


どうりで刻んだ野菜に塩麹をモミモミしてまぶせば即席漬けの出来上がり!……麹の香り強すぎじゃない???なんて、毎年思っていたわけだ。


それならばと、先日のバーベキューで塩麹を使ってみた。
前日にマグロのカマを買って、キッチンペーパーで包んでその上から塩麹を塗る。20cmはある大きなカマに塩麹は小さじ2ほど。それを冷蔵庫で一晩寝かせた。
翌日、焼く前にキッチンペーパーを剥がして塩麹をとり、焼いてみると………。



うっっっっまいっ!!!!!!


麹の香りなんて全く気にならなくて、マグロの旨味がギュッと凝縮されて、身はふっくら柔らか。

塩焼きのように表面は塩がガツンときいていて中は塩味がしないというのとはまた違い、中までしっかり旨味が入っている。塩加減もちょうどいい。

とても寒い日で火から外した焼き物はどんどん冷めてしまうけれど、冷めたってふわふわの旨さは変わらない。

予想をはるかに超える美味しさで、唸るうまさとはこのことだと思った。


おせんの中で「塩麹は昔からある食品添加物」とあった。なるほど、塩麹は主役ではなく裏方に使うもの。
本当の比率で作った塩麹
塩の比率が倍になるだけで化けるのでお試しあれ。